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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

  (6)

      (6)

 当たったんが、豚で良かった。助左衛門は胸を撫で下ろした。火薬にでも当たれば、船は木っ端微塵になるところだ。しばらくして、敵司令船から太鼓の音が「どーん、どーん」と聞こえてきた。とともに、するするっと白色の旗が揚がった。それが合図だったのだろう。黒旗の海賊衆はまとまって潮が引くように引いていった。これを見た南海丸の水夫、足軽たちから「ウォー」という歓声と勝鬨(かちどき)が上がり、勝利を喜びあった。助左衛門は六兵衛、吉兵衛などと顔を見合わせ、にっこりと笑みを交わした。六角坊や東風斎もやってきて、拳を突き上げた。悪名高いあの黒旗の海賊に勝ったのだ。
 「しかし、どうもふにおちませんなぁ。こんなにあっさりというか、きゃつら負けるなんて。こいつはどうも大頭目の六条の院はのってないのんとちゃいまっか」
と六兵衛。助左衛門も思う。
 「おそらく、そうやろな。なにか出てこれん訳があるのやろ」
 海の上は、大破して見捨てられた船とともに海賊たちに追いかけられていた明船が近くに停船していた。向こうから鉦(どら)、太鼓を打ち鳴らす音や、歓声が聞こえてくる。
 「五郎左衛門、伝馬船(てんま)おろしてくれ」
 脇船頭の三本松の五郎左衛門に助左衛門は言った。そして重ねて、
 通事(つうじ、通訳)の赤鼻の三右衛門を呼んできてくれ。それから、傷を負ったものの手当てを頼む」
 吉兵衛にも、あとは頼むと眼で合図した。
 吉兵衛はうなずいた。
 助左衛門の明国語は、流暢と言うわけでもないので、正確を期するために通事を呼んだのだった。南海丸は一時停船され、舟はすぐ下ろされた。助左衛門に六兵衛、三右衛門、完全武装の足軽六人、水夫五人が乗り込んだ。四挺の櫓(ろ、櫂のこと)で、舟はすいすいと進み、すぐ明舟に着いた。
                      (続く)



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